「インバウン丼」という新語も生まれた。国内の客が手を出しにくい強気価格が映すのはデフレに慣れた「安いニッポン」の姿だ。
東京・豊洲に2月に開業した大型商業施設、「豊洲 千客万来」のフードコートにある海鮮料理「江戸辻屋」の客は約6-7割が外国人だ。
1日に約300食が売れ、平日の午後2時台に品切れになるメニューもある。
広報担当の大川智也氏によると行列が長く、「営業時間を超える可能性がある場合は、販売を打ち止めることも」あるという。
こんな光景が各地の観光スポットで普通になりつつある。
北海道の「ニセコ東急 グラン・ヒラフ」ではキッチンカーでうなぎ丼が3500円、焼き鳥丼が2000円で販売されるが客の95%は外国人だ。
オーナーでGETグループ代表の早川直弥氏は、負担している従業員家賃や人件費がリゾート価格であるため「最低でもこのくらいで売らないと元が取れない」と話す。
オーストラリアから訪れたジャスティン・トデスコさんは、リゾート地なので価格は高めだが「僕らにはそれでも安い」と話す。
ヒルトンニセコビレッジで2300円のハンバーガーを食べたが、自国と比べれば3割安いという。
一方で、こうした強気の価格に日本人の財布のひもはなかなか緩まない。兵庫県から千客万来を訪れた岡崎洋子さん(主婦)は5900円のバイキング値段を見て「お昼に気軽に食べるにしては」とぼうぜんとした。
外国人と日本人のお財布事情に差が出るのは円安の存在が大きい。コロナ禍以降、円は対ドルで約4割目減りした。
だが、そのせいばかりでもない。過去4年余りの物価を比較すれば米国のインフレ進行の方が大きい。
インバウン丼という言葉の裏には、取り残されている日本の価格という現実もある。
宿泊データを提供するCoStar(コスター)によると、23年12月時点の米国の平均客室単価は156ドル(約2万3400円)、シンガポールは252ドル、オーストラリアは168ドル。対する日本は138ドルと、世界に比べればまだ割安だ。
「ここでしか味わえない。また来たい」と話しながら、米国から訪れたアレックス・ゴールドマンさんは豊洲でインバウン丼に舌鼓を打った。
シカゴで同じ値段を払ってもこれほど新鮮でおいしい海鮮丼は食べられないという。
インバウンド消費のプレミアム化を商機にする企業も現れている。外国人観光客向けにレストランの予約・決済サービスを提供するTakeMe(テイクミー)の董路氏は、日本を訪れる外国人が求めるのは「非日常」であり、約5割高くても盛況は変わらないという。
大阪府大阪市の道頓堀にあるすき焼き専門店はり重は、従来日本人向けに1万円台までのコース料理を提供していたが、テイクミーの助言で2万円を超える特別コースを提供したところ、インバウンド売り上げは14倍に増えた。
天ぷらやステーキを単品でオーダーするより得な価格設定で、「単価は上がるがお客さんが損するわけではない」と藤本有吾代表取締役は語る。
董路氏によると、同社の23年9月時点の売り上げはコロナ禍前の19年比で2.4倍になった。
インバウンド向けの店舗支援事業を運営するmov訪日ラボのインバウンド事業部長の川西哲平氏は、円安の追い風を受けながら今年はインバウンド消費の勢いが「このまま続くと思う」と期待する。
引用元: ・【円安】1食6980円でも飛ぶように売れる「インバウン丼」
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